第3日目
翌日の28日からは、もっぱら観光バスを利用して市内の名所旧跡を訪ねた。
当時は日本語を話すガイドはおらず、やむなく英語を話すガイドのバスに乗り込んだが、地名や人名その他の固有名詞が頻繁に出てくるのには参った。
28日の午前中、最初に訪れたところは、古代ローマ時代の政治と市民生活の中心地、フォーロ・ロマーノ。今は廃墟と化してしまっているが、2000年前の優美華麗な面影がそこかしこに残っている。
かつては、この中央の道を、将軍シーザーが紫のガウンをはおり、二輪馬車に揺られて凱旋パレードをしたとか。
前に写真で見たことがあったが、それだけで懐かしい感じがしたから妙なものだ。
次に訪れたところはパンテオン。
パンテオンとは、ギリシア語で、すべての神々を意味すると言うが、この神殿が紀元前27年に造られ、今なお往時の姿をほぼ完全な形で残している。
内部は何一つ人工の光がなく、ただ天井の丸窓だけが頼りだが、円形の建物の直径と高さが等しく、円天井は完全な半円球になっているなど、その調和の美しさは驚くほかない。
パンテオンの周りにはビルが立ち並んでいるので、外観の写真を撮れなかったのが残念であった。
この日の午後のツアーで最も印象に残ったところといえば、やはりあの世界最大のバシリカ、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂だろう。
中に入ってみると、その広さもさることながら、黄金色を基調にした色彩の見事なこと、さすがはキリスト教の中心地バチカンならではの。美しさであった。
ここはガイド氏お気に入りの場所とみえ、その説明は一段と熱を帯びていた。
なかでも、ミケランジェロ25歳の作品といわれるピエタ像(当時私は恥ずかしながら、この作品のことはまったく知らなかった)があったが、その聖母マリアの顔がどう見ても若すぎる気がしたのは私ばかりではないとみえ、ガイド氏の説明によると、ミケランジェロはマリアの表情に純粋さと慈愛を象徴させた結果、若さがそのまま残った由。分かったような分からぬような――――